ワインと旅の随想 「issyさんの日記」


               No.10  2002.12



bP0 もみじ



「もみじ」といえばやはり日本です。カナダのメイブル街道も有名ですが日本のように変化に富んだだ色合いはありません。紅い色が鮮やかなのと景色の雄大さはカナダが勝るようです。

 約四十年も前の古い話ですが、宮島に行った時のことです。朝早く観光客の居ない紅葉谷を通ると、小高い岡の上に茶店があり、庭に緋毛氈を敷き和服にインバネスを羽織ったお爺さんが三人、料理を中に座っていて杯を片手に紅葉の景色を眺めています。少し離れてお店の人が二人控えています。私達が暫くあたりを散策している間お互いに一言もしゃべりません。ときどき手酌でお酒を注いで飲むだけです。あたりのお店が開く前から準備をさせるほどですから、余程のお馴染みさんで良い生活をしている人たちでしょう。とても羨ましくなりました。私も歳をとったら「あんな紅葉見物をするぞ」と心に誓ったのですが、そのような友達もないし生活の余裕も有りません。有るものは暇な時間だけです。

 先日久しぶりに京都に紅葉見物に出かけてみました。京都は十一月が最も観光客が多いようです、京都駅近くのホテルの予約がやっと四泊取れました。

 最初の日は夕刻に京都に着きフランス料理とブルゴーニュに近いコート・デュ・ローヌの赤ワインで英気を養いました。

 明けて一日目は地下鉄、阪急、京福電鉄嵐山線と乗り継いで嵐山まで行きました。乗り物はむしろ空いていましたが到着すると大変な観光客です。今回最も変わったと思ったのは人力車がとても増えたことです。車体の格好も曳く人の服装も昔と違います、客引きの会話や走るときの掛け声など全く違いますがどこかに昔の雰囲気が残っています。

 鬱蒼と茂る竹林の中を歩き野之宮神社の傍から西に登って行くと大河内山荘に行き当たりました。このあたりは見物に来た人の車が沢山駐車しています。そこから北に向かって暫く歩くと常寂光寺に来ました。

 このお寺の紅葉は有名です。三門までの参道両側はまだそれほど紅葉していません。三門あたりからか紅葉が美しく見えます。門内は沢山の観光客です。参観料を払う所は長い列を作っています。楓ばかりでなく桜の紅葉も綺麗です。林の奥は未だ緑が濃いのですが梢や道端の日当たりのよいところは真紅のものも見られます。
 一番高い所に多宝塔があり紅葉が特に綺麗です。こんなに美しいもみじは何年ぶりかに見るようです。このあたりからは東方の眺めが良く、境内の紅葉や双が岡あたりまでが美しく見渡されます。引き返し始めましたが境内の狭い途なので混雑していてなかなか進めません。道の真ん中に立ち止まらせて連れの人の写真をぐずぐずと写している人もあるのでなおさらです。

 大体写真を摂る人は周囲の人の迷惑は余り考えないことが多いようです。自動車の運転をするときは歩行者の迷惑を考えることが少なくなっているのと同じだと思います。こんなことを言う私も立場が変われば同じではないかと反省させられます。特に私が気に入らないのはプロの報道写真家の行動と、報道記者の相手の人の心を考えない質問です。

 常寂光寺を出て坂を下ると落柿舎です。このあたりは修学旅行の生徒たちで大変な混雑です。

 天竜寺まで戻ってきましたが此処も大変な観光客です。三門横の楓は綺麗に色づいていて境内のもみじが美しいだろうと思いましたが、境内にも自家用車が沢山駐車していますし人ごみを嫌って境内に入らないことにしました。
 渡月橋を渡る時に見渡すと紅葉の見ごろは未だ少し早いようでした。中州の公園を通り阪急嵐山駅から電車に乗って帰ってきました。

 結構疲れています。早めにバスを使って一休みし、ホテルの食堂でフランス料理と昨日と同じ赤ワインを美味しく頂きました。

 二日目はタクシーで清水坂の下まで行き。墓地の中の清水新道を清水寺まで登りました。清水の舞台下などはもみじが綺麗でしたが、境内の大部分は未だ少し早いようでした。それでも夜間のライトアップが始まっていて、入園中のお客様も六時半以後は再度夜間入園料を頂きますと書かれていました。

 帰り始めるとまた修学旅行の大群です。三年坂に折れるといくらか人が少なくなりました。中年以後の女性買い物客が多くなってきました。昔はもっと静かだったと思いますが、今は生徒たちも中年女性たちも大声で喋りあって賑やか過ぎます。

 高台寺まで来るとさすがに人は少なくなりました。観音様は大きな体を屋根の上からのぞかせています。音楽堂の傍を通り八坂神社は失礼して円山公園の混雑を抜け、知恩院三門前に出ました。もう大分御腹がすいています。それでも青蓮院の傍を通り平安神宮に向かいます。近代美術館の手前のイタリア料理店チボリで昼食にしました。軽く一杯のつもりでハウスワインのイタリア産赤ワインのグラスを注文したのですが、つい三杯も飲んで帰りにレヂで笑われました。

 平安神宮の庭園はもみじの数は少なくても周りの緑や水に映えて美しい眺めです。参拝はわずかな時間ですが、いつもその後此処でゆっくりと時間を過ごして帰ることにしています。

 神宮を出て西に歩き冷泉通りをインクラインからの堀に沿って川端通りまで来ましたがもう歩くのは限度です。タクシーを拾ってホテルに戻りました。

 三日目はまず地下鉄で蹴上げまで行きました。これからは昨日の続きのような経路です。南禅寺の近道と書かれた門から入り、金地院の傍を通り三門前に来ました。このあたりも紅葉には少し早いようです。数は少なくても真紅に色づいた楓もありカメラを構えた人が沢山居ます。

 南禅寺の隣の永観堂の境内に入りましたが数年のうちに通路が綺麗に整備されています。私は寧ろ地面が見えたほうが良いと思います。そのためか進入禁止場所がやたらに増えたようです。裸の土地で自由に入れた時代のほうが良かったと思います。有名な見返り弥陀のお姿を拝観することもなく紅葉だけ眺めて帰る人を嫌ってのことでしょうか。私も今日はお参りを敬遠させてもらいます。

 永観堂を出て少し東に歩くと疎水から流れる小川に出ます。この川に沿って法然院あたりまで続く道が「哲学の道」です。春の桜が有名ですがその桜の紅葉も美しいものです。中には真紅の楓もまざっています。熊野若王子神社、光雲寺、大豊神社、安楽寺などの傍を通って法然院の近くまで来ました。今日はこちらも失礼して銀閣に直行します。他の川が北から南に流れるのに疎水からの水は南から北に流れて洛北の土地を潤しています。

 銀閣寺道は老若男女ごたごたと無秩序に歩いていて時間がかかりました。入るときの拝観券が「お札」のようになっているのが気になります。此処の紅葉も見ごろはまだまだです。砂だけはしっかり管理されていますが、庭や建物については気のせいか手入れが少し足らないような気がします。銀閣も金閣の華やかさと比べられるのでもっと手を入れてもらいたいと思います。手入れと言っても銀箔をべたべたと使ってくれと言っているのではありません。古いものを古いなりに美しく管理していただきたいのです。

 丁度お昼の時間になりました。橋本関雪記念館と庭園がありますがそれに隣接する、京料理店「白沙村荘」で食べました。京都に来ると生麩、湯葉、豆腐、京野菜など美味しいものが沢山あって私は大好きです。

 食後は吉田山の北を通って西にゆっくりと歩きます。京都大学の間を通り百万遍を過ぎ今出川通りを鴨川の傍まで来ました。疲れました。丁度京阪の出町柳駅があり三条まで乗り、地下鉄に乗り換えてホテルに戻りました。

 夕食は疲れていたのでホテル近くのの日本料理にしましたが、勿論赤ワインを飲む人が少ないので、ボトルはオー・メドックのハーフサイズのみですと言われ、日本料理にはあわないのにと思いながら二本飲むことになりました。洋食でもビールは小瓶だけという店も多いので不思議ではないのですが、気持ちのよいものではありません。

 四日目は東福寺、黄檗山万福寺、宇治などと歩きたかったのですが余力がなくなり、朝食を抜きにして昼食を早めにし、赤ワインをたっぷり飲んで早々と神戸に帰りました。

 歩くことは大切ですが、私にとっては大変なことでいくら用心して歩いても、以前ならなんでもない程度で結構疲れるようになってしまいました。
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