下町長屋ワイン物語 第一話 ブショネ 2004.3月 作者:ぽーやっく |
とある都会の、とある下町の物語です。ワイン好きの長屋の人たちの、なんともにぎやかなお話です。 きょうは、ワインを教えてあげるというご隠居から、はっつあんが突然の呼び出しを受けて、ご隠居を訪ねるところから始まります。 とくとご覧下さいませ。 「ああ、今日もいい天気だなあぁ。でもなんだって言うんだろう、ご隠居からワインを教えてもらうのは来週からのはずなのに、急においらを呼び出したりして。ははあ、きっと死にそうで、その前にっていうことだろうなあ。」 「こんちはご隠居、まだ生きてますかあぁぁ。」 「いきなりなんだい!縁起でもない!」 「なんだ、まだピンピンしてらあ。」 「ほんとに礼儀ってものを知らねえんだから!。まあいいや、あがんなさい。」 「へえ、どうも。ご隠居、なんですかい、急に呼び出したりして。」 「おまえさんに飲ませたいワインがあってな。これだよ。」 「どれどれ、ほー、赤ワインですか。どこのワインかよくわかりませんけど、ご隠居にふさわしく安っぽい・・・」 「ほっとけ!! これはイタリアのある地方のワインじゃ。ただ、それはどうでもよい。」 「どうでもよいってそんないいかげんな。本当はご隠居、ワインを知らねえんじゃあ。」 「そうじゃない!! まずこのワイン、香りをかいでごらん。」 「どれどれ、・・・ふーん、うんうん、ふんふん。」 「汚らしい表現しかできんのか!!どうじゃ?どんな香りじゃ?」 「なんか、田舎にいたとき、おっかあに怒られて土蔵にほおりこまれたときの湿っぽいにおいみたいな・・」 「お前なんかそのままネズミに食われちまったらよかったんだい!」 「それはあんまりな〜〜」 「まあよい、でも、そのにおいを感じるなど、お前さんも捨てたもんじゃないな。」 「へえ、おほめに預かってどうも。ってことはあっしは天才?」 「うぬぼれるんじゃない!これはな、ブショネっていうんじゃ。」 「そんな、でも何で知ってるんですかい、おいらがブショウって。」 「その不精じゃない!ブショネじゃ。ブショネは日本語ではコルク臭(コルクシュウ)というが、コルク本来のにおいのことではない。ワインについたカビと、コルクを洗浄したときの塩素系薬品などが反応したりして、トリクロロアニソルという物質ができることがあるが、そのにおいじゃ。」 「さいなら。」 「にげるな!!ちょっと難しくなるとこれだ! 我慢して聞きなさい。これはワインを知っていくうえで大事なことじゃ。」 「でもご隠居、おいらもワインの入門の本、何冊か買って読みましたけど、こんな難しいこと出てませんよ。いじめないで下さいよ〜〜〜、おいおいと泣く。」 「何をわけの分からんことをしとるんじゃ! でも、そう、殆んどの入門書、書いておらんのう。じゃが、これは変質ワインのひとつで、とても重要なのじゃ。 多くの人たちは、飲んだワインの中にはこのブショネのような変質ワインが少なからずあったはずじゃ。 でも、お前さんのいうとおり、本には殆んど書いておらんし、変質ワインでもそうと知らず、このワインはこんなもんだと思ったり、通にいたっては、うんちくを語ったりしておる!」 「そんなに怒ると血圧上がりますよ。ただでさえ死にかけなのに。」 「だれが死にかけじゃ!! とにかく、まず健全なワインありき、じゃ。すべてはそれからじゃ。」 「なるほどね。よーく分かりました。・・・ところでご隠居、その変質したブショネのワイン、どうして殆んど無くなっているんですかい?」 「さて、散歩に行ってこよーーっと。」 「あーあ、なんだかんだいいながら、結局は飲んじゃったんだな、あのくそじじい!!」 お話はまだまだ続きます・・・かな??? <お暇ならお読みくださいませ。 より詳しく> 最初から難しい話とお思いでしょうね。たしかにどの入門書も、変質ワインについてはせいぜいあいまいに書いているくらいです。ただ、健全なワインであってこそすべての始まりと思い、このテーマを第1回といたしました。 変質したワイン、いやですよね。でも、どれが変質か、おそらく教えてもらったことは無いと思います。そして、ほとんどの人がそれに気がつかず飲んでしまっているのが現実でしょう。 ブショネや変質ワイン、知らないなら知らなくてもどうということはありません。 たいていの場合は人体には影響がありませんので、知らずに飲んだからどうこう、ということもありません(ただし微生物汚染を除く。これはまた別の機会に)。 ただ、そのワインの味や香りが、そのワインの特徴だと判断する基準には決してならない、ということです。 そして間違いなく、その代金に見合ったワインではありません。 変質の典型的なのが、このお話にあるブショネです。トリクロロアニソルという物質に犯されたワインです(なお、テトラクロロアニソルやトリブロモアニソルなども原因物質となります)。だいたい100本に3本の割合であるといわれていました。 ただ最近は、ワイン醸造所のカーブ(貯蔵庫)の改修時に、塩素系消毒剤で消毒した木材が使われていたために、これがカビと反応してトリクロロアニソルを発生させ、カーブ中に充満していた、と言う事実も発見されています。これでは100本に3本じゃあすまないですね。 この醸造所はそれでどうするか、ご想像にお任せします。 通常、ブショネのワインは、コルクのワイン側がかび臭いようなにおいがします(空気に触れていた側のカビとは、直接は関係ありません)。これが、ブショネを見分ける一番の近道です。 ただ、上記のようにカーブが汚染されていたことが原因の場合、コルク自体には影響が出ていないこともあります。その場合は、ワインの香りと味だけが頼りです。 もちろんワインそのものからも判断できないことはありません。やはりカビくさかったり、すえたにおいがします。 ワインが本来持っているはずの果実香は、ほとんどこのカビくさいようなにおいに取って代わられています。 ただ、ワインの香りと味だけでブショネと断言するのは、じつは至難のわざです。 実際、プロの試飲会でも、ほかの誰一人ブショネに気がつかなかった、という話を聞きます。 私自身も、ワインバーやワインカウンターなどで、グラスワインですが4回以上ブショネのワインにであった経験がありますが、そこのスタッフが先に教えてくれたということは一度もありませんでした。 ブショネ以外の変質の要因としては、硫化水素、フェノレ、高温下に置かれた、等々ありますが、私もまだ勉強中ですので割愛いたします。 いずれにしても、これらの変質ワインを消費者が見分けるのは無理があります。 また、もし仮に皆さんがワインショップや酒屋などで買われたワインが、間違いなくブショネや変質ワインだったとしても、これを交換してもらうということは難しいと思います。 ワインショップなどにしても、それを輸入業者や、ひいては醸造元にクレームをつけて返金、または交換という仕組みが今のところは出来ていないようですから。 ただ、レストランやワインバーなどでこれらの変質ワインに出会ったときは事情が違います。 本来、レストランなどのワイン価格は、これらの変質ワインがあった場合の保険的意味もあって、市販価格よりも場合によっては2、3倍の値段をとっているのだと言われています。 ただ、現実のところ日本のレストランでは、変質ワインを客側から指摘しても、殆んどの場合、質に問題ないと交換してくれない場合が多いと聞きます。 それならば、ワインを注文したときのテイスティングは、一体何の意味を持つのでしょう。 じつは、ここまで書いて、しめくくりを考えていた矢先のことです。 昨日、大阪のあるワインスクールで開かれた、ボルドーワインの比較ブラインドテイスティングのセミナーに参加してきました。 ワインは全部で6種類、ボルドーのメドックとグラーブという地区の赤ワインで、市価5,000円から11,800円、平均で1本9,150円もするワイン達です。 参加者の前にはそれぞれ6個ずつグラスがおかれ、各自がそれぞれのグラスにそれぞれのワインをそそぎ(比較ブラインドテイスティングですから、もちろん何のワインか分からないように、ボトルにはラベルなどはついていません)、順番にテイスティングをしていきました。 そのうちのひとつのワインが、なんと、ブショネだったのです! そのワインをテイスティングしたとき、どうしてもおかしく感じましたので講師の方にその旨を告げたところ、「自分もおかしいなとは思ったけれども、コルクにはブショネ臭がなかったのでブショネではないと思い、また、ほかの種類の変質も含め確証がなかったので・・・」との回答が返ってきました。 ただ私が進言したあと、講師の方はやはりそのワインがブショネかあるいは何らかの変質ではないかとの思いを強くされたようで、受講生(全部で9人)にもその可能性を話されていました。 なお、今回のブショネの原因は、まさに、醸造元のカーブが汚染されていたのではないかと思われます。 ワインスクールでさえこういう状態なのです。 そのワインがブショネなどに犯されていた場合、いかに、そそがれたワインだけでブショネなどであることを判断するのが難しいか。 長くなります。これでやめます。 ただ最後に、日本ソムリエ協会やワインを扱っている業者団体は、ぜひワインを扱うことを業としている方々に、変質ワインについて実習等でご指導いただき、消費者に変質ワインを提供しない努力をしていただきたいと、心から思います。 |
●作者:ぽーやっくさん から 私はあくまで一人のアマチュアに過ぎません。 若いころボルドーやドイツの素敵なワイン達に出会い、その喜びを知りました。 ワインを飲まなかった期間は断続的に長かったですが、ワインをより深く知りたいという思いも、断続的ですが尽きることはありませんでした。 それが高じ、またある出来事がきっかけで、ワインエキスパートの資格を取るに至りましたが、これはあくまで通過点に過ぎず、さらにワインを知っていくことに喜びを感じています。 毎日ワインを飲むというタイプのワイン好きでは無く、週に1〜2回、1回に1〜2杯のグラスワインを飲む程度です。 ですが、試飲会やワインフェアなどには可能な限り参加して様々なワインに接し、経験を広げる様にしています。 ただ、宴会ではもっぱら焼酎のお湯割りも楽しんでおり、何でもかんでもワイン、という考えも持ち合わせておりません。 でも、すばらしいワインとの出会いを人と分かち合うのが私の一番の楽しみです。 私の願いは、誰もが楽しくワインを飲めることです。誰もが、自分のスタイルで好きなワインを楽しめばいいと思います。 それを、通はこんなワインを飲まない、とか、自分の解釈・知識を人に押し付ける方がいるようですが、それは好ましいすがたではないと思います。 今回からの「下町長屋ワイン物語」は、ワイン初心者の方にはワインを楽しむために必要だと思われる知識を楽しく得られるよう、また上級者の方にとっても、よりワインに深い見識を持っていただけるよう工夫したつもりです。 今回のテーマ「ブショネ」は一見難しそうですが、変質ワインを見分ける、見分けないは別として、健全なワインこそまず最初にあるべきだと思い、それで、このテーマを最初に取り上げました。 これからも、ワインを知り、楽しむために大切だと思ったことは、従来の既成概念にとらわれず、どんどん積極的に取り上げていくつもりです。 すべての皆さんがそれぞれにワインライフを楽しまれていく、その一助になれば幸いです。 |
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